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思い出にひたり、朗らかな心地で過去を味わうのは心身にも良い。僕はというと、ついつい過去の記憶を題材に、子供のころ誰もがそうであったであろうように、空想を上乗せし、掴みどころのない、行き場のない、いわば奥行きの時間を過ごすことが好きなようだ。

ときは2010年。以前からあこがれていた魅惑のエリアへの旅立ちの機会は突然おとづれた。突発的な衝動。

僕は新婚にも関わらず、一族の説得を果たさぬまま旅に出た。

インドについた。デリーを歩いた。いろいろあった。

空港警察を喫煙のために買収した。
インド列車を攻略できなかった。
ドライバーを雇うことを覚えた。
映画スターを見た。
デリーに飽きた。
、、、。

そろそろ、ガンジスでも見に行こうか。

仲良くなったホテルのマネージャーに行き先を告げ、
内陸の旅に出た。

8時間を見込んでいたデリー出発から12時間ほど経過した明け方5時付近。旅の記憶からの空想はいつもここからはじまる。

まばらな民家の庭から立ち上がる煙。
路地から路地へとここはどこ。方角なんぞに特に意味はない。

垂れた電線は死んでいることを願うが活線としか思えない。
近づけど決して触れない野犬と、犬と電線、二つのリスクに一定の距離を保つ人間の子どもたち。

この路地で夜を過ごしたに違いない。

真っ暗な闇に日が昇り、
ここバラナスの町にもいつもの朝が来る。
心の隙間にリアリティが流れ込む。

そうだ、いつか幼い頃感じていた振動だ。

溢れんばかりの人と欲望、そいつに引き寄せられて、
ガンジス沿いのガートに立つ。
対岸を眺めた。
心の隙間にガンジスが流れ込み、空を見上げた。

そうだ、いつか故郷で見上げた空だ。

聖地と言う名の人だかり。
聖なる川は世界をありのままに受け止める。
路地裏の若者の目つきは鋭い。
牛は食わぬが代わりにそのノロマなケツを叩く。
よそ者にはスプーンやフォークを用意。
手で食わぬから腹もこわすのだ。

腹を痛めてガートにうずくまり、
耳かき屋の老人の僧侶風の衣装は派手すぎる。
おまけに笑顔でしつこい。
ワンセット50ルピーだとさ。

だから冷たい笑顔で言ってやんだ。
日本のメンボー(綿棒)を25ルピーで売ってやるよ。って。

、、、。

日が落ちる。バラナスの町にも夜が来る。
いつからか低音バイブス、聖地の真ん中皆でレイブ。
ボディで感じるインディグルーブ、こいつはすごい。
そうだ、夏の夜に感じた故郷の祭りだ。

ループの誘いで迷い込む精神エリア。
快楽は求めずしておとづれる。

パリ オーガニック。
パリとは -真の- と理解すればはずさない。

ブッダは仏滅をもって、パリ ニルヴァーナに達したらしい。
真の涅槃(ねはん)。

仏教の世界は奥行きだと思う。
ちなみにインドにはヒンドゥもムスリムもいる。
居住区が明確にわかれている。

、、、。

人ごみの中に青年を見た。そいつだけが視線を奪う。周囲はすべて深度の浅い背景のようにぼやけているのに、そいつだけが鮮明だ。

寄り道を繰り返しながら、
ついに奴はやってきた。

すれ違いにつぶやく、ハッパ、
苦笑で視線を斜めに落とす。
今度は逆側、つぶやく、ハッパ、
今度は真顔で左右に首をふる。

衣装は地味だがしつこいのは同じだ。

モヤの中から現れといてハッパ売り、
おまけにしつこいハッパ売り、

ところでお前はなぜ俺を狙う?
好きそうな欧米風なら他にたくさんいるじゃないか。

俺のは上物だ。なかなか手に入らない特別なやつさ。
損はさせない、絶対気に入る。どうだ、、、

こちらの話は聞く気もないようで、すかさず奴は指で示す。
ニと五。

ゼロの数はわからない。
いずれにしても安モンだ。
だから思いっきり日本語で言ってやったんだ。

俺は雑草は吸わない。
ちなみに、お前の言うハッパは、日本ではワッパだ。

、、、。

 

この国では、ただただ生きるために、爽快な毎日が繰り広げられていて、そこにあるリアリティのすべてを、過ぎればガンジスに流してしまう。それは他国からの旅人であっても同じく、本来誰もが生まれ育った故郷に、はじめから備わっているはずのリアリティ溢れる毎日を思い出させ、ここバラナスで見るガンジスの流れにひととき身を浮かべさせては、故郷へ帰れと言わんばかりにこれもまた流してしまう。

僕は今でも、あのとき見上げたバラナスの空は、やっぱりいつか故郷で見上げた空だったし、あの夜、ガートで認めた高揚は、かつて故郷で楽しんだ夏祭りのそれと違いないと思う。

家族を放置し、未熟にも程がある頃の、忘れられない旅の回想。

 

2020.秋未明いい季節
マティフラット